●2019年6月22日(土) 学び直し塾選択科目D-2

日 時:2019年7月3日11:00~15:40

会 場:「街カフェ大倉山ミエル」
    「ビヨンドザリーフ」

参加者:14名

今回のツアーは、ふたつのコミュニティビジネスの現場を訪ねます。どちらも女性起業家が、地域や社会の課題を、地域の資源を活かしながら解決して、地域を元気にしています。

「街カフェ大倉山ミエル」

NPO法人大倉山ミエル  https://cafemiel.jimdo.com

最初の訪問先「街カフェ大倉山ミエル」は、NPO法人 街カフェ大倉山ミエルが運営しているコミュニティカフェです。誰でも立ち寄ることができ、地域社会と繋がることのできる地域の「居場所」です。

元ギャラリーの小さなカフェ

大倉山ミエルさんは大倉山駅から歩いて12分ほどの住宅街にあります。切妻屋根のシンプルな平屋建て、薄い小豆色の外壁がどことなく和の佇まいです。

木の扉を開けて店内へ。床や壁、天井に使われている自然素材が温かな空間をつくり出しています。入ってすぐの棚には様々なパンフレットや直売の野菜、絵本や書籍などが並べられていました。中央に大きな無垢材のテーブルが二つ繋げて配置されています。窓際にも小さな丸いテーブル席があります。奥の壁際にはピアノも。正面はカウンターで、その向こうに厨房が見えます。

NPO法人街カフェ大倉山ミエル理事長の鈴木智香子さんが、次々に到着する参加者に席を勧めてくれます。14名の参加者で店内はいっぱいになりました。

まず自己紹介から

鈴木さんからのリクエストで、自己紹介からスタートです。参加者は都筑区や港北区だけでなく旭区や港南区、南区、緑区、川崎市など広い地域から集まっています。起業を考えている人や、すでにNPO活動を始めている人、これからの生き方の参考にしたい人など動機もいろいろです。コミュニティカフェが初めてという方がほとんどです。 自己紹介が終わったら、いよいよ鈴木さんの街カフェ大倉山ミエルの話です。

「街カフェ大倉山ミエル」は商店街のアンテナショップから

2010年8月。全国的に養蜂ブームが起こり、大倉山の商店街も「大倉山はちみつプロジェクト」を立ち上げました。当時、鈴木さんは4人の主婦仲間とサークル活動をしていました。鈴木さん達は商店街からそのプロジェクトのアンテナショップをやらないかと持ち掛けられたのです。

前々から地域に人が繋がれるプラットホームのようなものがあったらいいなと考えていた鈴木さんは、某起業ビジネスコンテストで支援金を得て、4人の主婦と共にそのアンテナショップを始めることを決断しました。

3か月後の2010年11月3日に「大倉山ミエル」がオープン。“ミエル(miel)”はフランス語で「はちみつ」を意味します。大倉山駅から4分ほどの場所で、広さは10坪、家賃14万円でした。「当時の私たちは、家賃14万円を払っていくことの実感を持てていませんでした。やれば払えるんだろう、そのくらいの感覚でした」。店の整備や什器の購入は商店街がやってくれ、しばらくは支援金で家賃を賄えていました。

その数か月後、家賃14万円の重みを実感することに。「お店を始める前に中小企業診断士の方に事業計画を見てもらいました。美味しいものを出せば大丈夫ですよと言われましたが、そんなものではありませんでした。はちみつはよく売れましたが…」。ボックスショップや講座もやりながら懸命にカフェを回しました。鈴木さんはここでの3年で5㎏も痩せたそうです。(ボックスショップ=地域の方が使用料を払い手作り品などを販売できる小箱ショップ)

「大倉山はちみつプロジェクト」は3年で幕を下ろしました。大変でしたが、この期間に行った活動で他のNPO団体や港北区役所、商店街、学校、生協などとの繋がりができました。

現在の「街カフェ大倉山ミエル」

その後も鈴木さん達は活動を続け、何回か移転を繰り返し、2018年9月から元ギャラリ―だった現在の場所で営業をしています。京都に移り住んだオーナーさんが鈴木さん達の活動をよく知っていて貸してくださったそうです。

立ち上げ時の5人のメンバーのうち、鈴木さんと副理事長のふたりは今もNPOの運営に携わっています。

大倉山ミエルは基本はカフェですが、「おでかけミエル」や「カレーの日」、「みんなの食堂」、「有機野菜の販売」などの固定の催しや単発のイベントも行われています。また、スペース貸しも行っていて、パン教室などに使われています。

カフェのスタッフは6人(うち調理師資格保持者2人)。ほとんどが主婦です。働き手の確保が難しいのと人件費を抑えるために、カフェの営業は月曜~金曜の10時~15時です。

毎月「4丁目大倉山ミエルカレンダー」という催し物のチラシを配布して集客に努めています。

「大倉山ミエル」の収支

コミュニティカフェのようなコミュニティビジネスは、事業性と社会貢献性のバランスを取ることが難しく、そのバランスが取れないと続きません。安定的継続が課題の世界です。「ミエルさんの収支はどうなっているのだろう?」コミュニティカフェを始めたいと思っている参加者には大きな関心事です。

「大倉山ミエル」の収支

収入の内訳:売り上げ46%、スペース貸しのレンタル代5%、補助金49%

支出の内訳:家賃41%、光熱費11%、仕入れ・備品代14%、ボランティアへの謝礼34%

(収入≒収支)

支出で大きな比率を占めている家賃は、補助金で賄えています。カフェで開催されている「おでかけミエル」という地域のシニア向けの活動が、住民主体の支え合いの場になっているとして、横浜市の介護保険事業(生活支援補助事業サービスB)の対象になっています。

コミュニティカフェでランチも体験

お料理を作ってくれたのは若手スタッフのサト子さん。酢とたっぷりショウガのカレーです。ほどよい酸味が夏にぴったりです。デザートはヴィーガン(植物性の材料100%)のキャロットケーキ。コロッと入っているクルミの食感もいい。表面を飾るクリームは豆腐をベースにしているそうです。若いセンスに溢れた素敵なランチでした。

参加者の感想

「起業の選択肢のひとつとして、実際にコミュニティカフェを見てみたかったので参考になりました。利益を出すのは難しそうですね」、「あんな居場所が近所に欲しいと思いました。身近に緊張が解けホッとする場があるといいですよね」、「10年近く続けてこられたのは凄いことだと思います。これからの時代、ますます大倉山ミエルのような居場所が必要になるでしょうから、是非続けてもらいたいなと思います」。

最後に

人が好きで街が好き、鈴木さんのそんな思いが形になったカフェでした。鈴木さんは「大倉山ミエル」のほかにも、たくさんの地域活動に携わっています。これからコミュニティカフェを始めたい人にとって頼りになる存在です。

ビヨンドザリーフ(Beyond the reef)

https://beyondthereef.jp

午後は、手編みバッグの製造販売で高齢女性の社会参加と多世代交流に貢献しているビヨンドザリーフさんを訪ねました。

女性が集うショップ兼工房

ビヨンドザリーフさんのショップ兼工房は、日吉駅から2分ほどの路地を少し入ったところにあります。入口の木製ドアと、それを囲むように演出された真っ白な漆喰壁が印象的な店構え。ドアのガラス越しに店舗の中がよく見え、奥のテーブルではワークショップが進行中です。

店内はナチュラル感が漂っています。細い木材と板を組み合わせた華奢なディスプレイ棚には、バランスよく商品が並べられています。ニットのクラッチバッグや、かごとニットを組み合わせたバッグなど、どれもおしゃれで繊細で温かみのあるものばかりです。

バッグにはたくさんの幸せも編みこまれていました

社長の楠佳英さんが語ってくれたブランドを立ち上げて事業化し現在に至るまでの軌跡は、目の前のたったひとりを笑顔にしたかったことから始まっていました。いま、ビヨンドザリーフさんにはたくさんの笑顔があふれています。

ビヨンドザリーフさんのホームページには、このドラマティックなストーリーが美しい文章で綴られています。ぜひ一読を!

https://beyondthereef.jp/ja/concepthttps://beyondthereef.jp/ja/concept

なぜ株式会社にしたのか?

コミュニティビジネスはNPO法人が多いのですが、なぜ楠さんは株式会社の形態を選択したのでしょうか。答えは明解でした。

「純粋に利益を追求しているからです。個人事業主として始めましたが、1年半後に投資家がついてくれたので株式会社になりました」。

「お義母さんの編んでいたレース編みは美しかった。でも時代に合っていなかった。それならその時間と労力をもっと付加価値のあるものに変ればいい。変えたら新しい事業が生まれ、新しい雇用も生まれる。喜んでくれる人がいっぱいいる。シニアの社会参加やシニアの活躍に繋がるのではないかと思いました」。

「自分がきゅうきゅうの中で『女性の幸せが』とか言っても何の説得力もありません。まずは自分に余裕があって満たされなければならない。自分の中で無理のない生活を送ることが絶対条件です」。 「お客さんはその喜んだことに相応の代価を支払うべきです。ワークショップは4時間ほどで1万円ですが、それだけのデザインと作りたいもの、また、それだけのサービスを提供しています。満足してもらうことへの対価であり、申し訳ないと思って受け取るものではありません」。

なぜ編み物でバッグ?

今までの編み物のイメージではインパクトを出せないと考えた楠さんは、毛糸でクラッチバッグを作ることをひらめきます。でも、なぜバッグを選択したのでしょう?

「手編みのセーターでは高額になり過ぎて何枚も買ってもらえません。でも女性はバッグならいくつも買います。新作を出し続けることで商売が成り立ちます。衣類と違って試着がいらないのでオンラインで売りやすい」。

「編み物は耐久性に問題があります。それをバッグにするのはチャレンでした。そのチャレンジをやり続けることも意味があると思いました。編み物業界とファッション業界に浸透し二つの柱が立つと思ったのです」。

この事業のきっかけをつくった楠さんのお義母さん・ミチ子さんのお話

バッグ作りを始めるまでのミチ子さんは、一日中テレビを見てレース編みをしていたそうです。ミチ子さんは編み手さんでありワークショップの先生でもあります。ミチ子さんのお話を伺いました。

「私くらいの年齢の人はそういうことをしていないと、一日中やることがないの。暇つぶしのものを探すことから一日が始まります。子育ても終わり両親と夫を見送るという大仕事が終わったころから、これから自分はどうなるんだろうと思っていました。でも『キョウヨウ(今日、用がある)と『キョウイク(今日、行くところがある)』を見つけてもらえました。こういう場を与えてもらって本当に感謝しています」。

以前はご子息たちから安否を気遣う電話があったそうですが、今は全くないそうです。「元気にしている、それが子ども孝行であるかなと思います」そう話すミチ子さんのイキイキした表情が印象的でした。

編み手の大ベテラン・マサ子さんのお話

80代の編み手さん・マサ子さんからもお話を伺いました。マサ子さんは楠さんが編み手さんを探し回ってようやくたどり着いた編み物サークルのメンバーのおひとりです。「マサ子さんは広報部長なんですよ」と楠さんはマサ子さんのコミュニケーション能力の高さに太鼓判を押します。ワークショップで人気者なのだとか。そのマサ子さんが話してくれた内容は、超高齢社会を楽しく生きるヒントが満載でした。

「この5年くらいで人生がガラリと変わりました。70歳過ぎまでは何をしていたか記憶にないくらい。

外に出て行って人と話ができる。それも高齢者ばかりの老人会に行って話をするんじゃない。こういう場所でお話しできる。30代の方とライン交換したりして喜んでいる。そういうことが私には生きる励みになります。病気との戦いですがワークショップに来てくれる方と話すと元気が出てくる。自然に会話ができます。お客さまだからと敬語で話すのではなく普通にこんにちはと話します。顔見知りがいっぱいできて気楽に話ができます。

社長と出会ったことで、目の前がぱっと広がりました。社長には高齢者にやってあげているという感覚がありません。年齢に関係なく、何歳でも同じように接してくれ、その人の何かを引っ張りだそうとしてくれます。社長は夢と希望をくれています」。

起業する方に向けたエール

参加者の中には起業を考えている方も多く、楠さんからその方々に向けたくさんのアドバイスからいくつかをご紹介します。

「誰かの助けになりたいと思って起業する方は多いのですが、継続性と言うところが弱い。

人の役に立つには、継続することが一番重要です。途中でやめたら困る人がたくさん出てきます。そして継続するためには利益を出す必要があります。ですから利益を出すことが何よりの社会貢献になります」。

「何から手を付けたらいいかわからないのは、やることがいっぱいあり過ぎるから。どれかひとつピックアップしてやってください。すると次にやることがわかります」。

「何をすべきかより、何をやりたいかです。それを逆算する。起業したいと思ったら、その先にはお客様がいます。お客様に届けなければならない。どうやって届けるかを考えるのです」。

「オンラインショップは誰でもすぐにできる時代。インスタグラムやフェースブックを屈指すればお金をかけずにいくらでも事業を始められます。知恵と行動力次第。発信しているといつか人を巻き込めるようになります。仲間ができます。一緒にやりたいという人が現れたら共同でやる。だから発信をやり続けることは大事です」。 楠さんが情報を発信したのはSNSだけでした。ブランド名が決まる前から試し編みの写真をインスタグラムに上げていったら、いつの間にかファンがついたそうです。

参加者の感想

「マサ子さんはキラキラしてチャーミングでした。後期高齢者で私の母親と同世代ですが、働いて収入を得ている。あれだけの張り合いと遣り甲斐を提供しているのだからタダでもいいだろうという会社が多いが、そこにお金を払うというのは楠社長の才覚です」。

「マサ子さんはイキイキしていた。80代でも働けるっていうのを見せてもらった。人生100年、女性が働く時代、嫌々働くのではなく、楽しみながら幸せになりながら働けたらいいな」。

「楠さんのトレンドを追っている鋭さと気さくな人柄が、この事業を成功に導いたと思います。それと、すごい行動力も」。

「女性の幸せにコミットしている楠さんのブレない心を感じました」。

まとめ

店舗内でワークショップを開催中と言うこともあり、3つのグループに分かれて時間差で訪問させていただきました。社長の楠さんは3回も同じ説明をして、たくさんの質問に回答して大変だったはずなのに、どの回でも真正面から向き合ってくださいました。起業を目指す方だけでなく、参加したみなさんがパワーを充電してもらえたひと時でした。