● 2019年7月20日(土) 14:30~16:00

現在の税制や社会保障制度の原型は戦後の高度成長期につくられたもの。経済環境も社会環境も激しい変化を遂げて、いまの社会構造に合わなくなっている。仕組みを変えていかなければならないが、私たちも行政に頼るだけでなく地域で助け合える地域社会づくりを考えていくべき。こんな内容を話していただきました。

五味さんの周りでも、地域社会づくりが進行中

五味さんの住んでいる地域は50年以上前に分譲された住宅地です。いまは高齢化が進み高齢者の単身あるいは夫妻だけという世帯が非常に多くなりました。

7、8年前、奥様の真紀さんが自治会の役員だったときのこと。日常生活の小さな困りごとはないかと自治会でアンケートを回したそうです。するとみなさんから、電球が換えられない、重いものを動かせない、大型のゴミを自分で出せない等々たくさんの困りごとが上がってきました。

そこで「ちょこっと応援団」というボランティアグループを作ってお手伝いを始めることにしました。遠慮がちなお年寄りに配慮して実費のほかに1時間500円ほどいただきます。いまも大いに利用されているそうです。

アンケートには、話し相手になって欲しいという回答も上位にあがっていました。多くの方がコミュニケーションの場を求めていたのです。そういう人たちが集まりやすい場所を作りたいと真紀さんが始めたのが住み開きのカフェ「ハートフル・ポート」です。五味さんは顧問を務めています。「ハートフル・ポート」は、人と人、人と地域をつなぐ地域の「居場所」になっています。

戦後の高度成長期の特徴

ここから少しアカデミックな話になります。高度成長期当時の社会環境や経済環境。それを前提にした税制や社会保障。次々具体的にあげられました。

  • 15歳から64歳までの労働人口が増加
  • 高齢者の人口比が非常に低い
  • 加工貿易による経済発展
  • 自然増収
  • 中央集権
  • 直接税中心の税制
  • 中福祉中負担の社会保障
  • 利益の配分の時代

経済環境も社会環境も激しく変化しました

戦後の高度成長期から50年、当時から激変しました。現在の日本の経済環境と社会環境を確認します。

  • 少子高齢化。労働人口の減少
  • 25%を超える高齢化率
  • 日本の回りは競争相手だらけ。企業が黒字を出しにくい環境
  • 非正規雇用の増加
  • 税収減
  • 負担の分配の時代

負担の分配

前提となった環境が大きく変化したからには、現状に合った税や年金制度などの仕組みづくりが必要です。私たちも負担を担わなくてはなりません。

  • 外形標準課税で赤字企業にも課税
  • 消費税導入とその後の税率アップ
  • 地方分権
  • 行政サービスの縮小
  • 年金制度見直し。マクロスライド、受給年齢68歳
  • 一定の所得以上ある70代以上の高齢者は病院窓口負担3割

中央集権の負担の分配は国民の抵抗が大きい、ならば‥

税や年金制度の変更による負担の分配は、みんな文句を言います。中央集権では難しい。そこで五味さんが提唱するのが補完性の原則です。

スェーデンでは学校も病院も無料ですが、国民所得に対する税金と社会保険料の負担は7割近い。この高福祉高負担が実現しているのは、補完性の原則で社会の仕組みができているから。

補完性の原則とは(補完性の原理ともいう)

補完性の原則は、キリスト教的な発想で個人の尊厳や個人の自由が基本にあります。

自分の問題は自分で片付ける。あるいは自分の夢は自分で描く。そして自分で実現する。でも一人で無理なことは、その一つ上の小さなグループが補完して手伝ってあげる。普通は家族。家族でも無理だったらコミュニティで助け合って解決する。ヨーロッパの場合は、教会が仕切ってくれます。それでも無理なら行政、地方政府。問題の性格によっては国が解決していく。これを補完性の原則といいます。

地域で助け合える地域社会づくり

都市部の限界集落問題も補完性の原則で考えます。家族機能が不十分な高齢者世帯には、まず「ちょこっと応援団」や「ハートフル・ポート」のような隣近所の中から生まれるコミュニティが手を差し伸べる。そこで解決できないことを区役所に持っていく。コミュニティはボランティアではなくコミュニティビジネスとして成り立たせる。このような仕組みができれば、都市部の限界集落問題もかなりの部分が解消されていきます。

これが五味さんの考える、地域で助け合える地域社会づくりです。

2,000万円問題

金融庁の「金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書」に端を発した2,000万円問題。

「年金だけではやっていけない。2,000万円くらい貯めておかないと酷いことになりますよと言われている。でもそんなことはどこにも書いてない、報告書をよく読んでください」この言葉から話は始まりました。

報告書に書かれていること

年金収入だけの人の支出を政府統計の平均からチェックすると、90歳までに年金収入を上回る支出をしています。その金額が2,000万円。年金収入だけの方も自分の望む生活スタイルや生活設計に近い生活をしようとします。年に一度の海外旅行や孫への学資援助など。それを行った結果が年金プラス2,000万円で、その2,000万円は金融資産から。これは平均で見ているもので、もちろん年金だけで生活している人もいます。

これらは今の若い人たちに、満足度の高い老後のために若いころから地道な金融資産の積み上げを心がけてもらいたいと、参考に示した計算例なのです。

また報告書の中では金融機関に対しても、顧客本位の金融商品を提供してくださいと言っています。

「金融行政をやっていたものの目から見ると、本当にいいことが書いてあり、こういうことを誰かに言って欲しかったという内容の報告書です。見当違いの方向に話が行ってしまって残念ですが、本来狙っていた若年層からの資産形成への関心は高まりました」。