2020年12月12日(土)

 

なぜ多くの高齢者は「子どもの世話にはならない」と言いつつも、結局「成り行き任せ」

「子どもに丸投げ」になってしまうのか、「百まで生きる覚悟」(光文社新書)の著者で臨床社会学者の春日キスヨさんにお話を伺いました。講演会後はNPOロクマル有澤理事長と対談、質疑応答でした。

まず今日お話ししたいこととして次のことがあります。

  • 人生100年時代の後半課題、介護について考える
  • 過去30年間で超長寿化と家族力低下が同時進行
  • 人々の意識はその変化についていけない
  • 介護を受ける側の高齢者の意識
  • 介護を担う子ども世代の意識
  • 国は在宅介護を推進するというが、その「在宅」の実態は?
  • いま、求められる新たな人生のイメージ
  • いま、求められる新たな意識転換

あっという間に長生きするような日本になりましたが、あまりにも変化が激しくて高齢の親側の意識も、支える子世代に意識も変わっていません。最後まで自宅で、といっても最後まで自己決定できる能力を持ち続けないのが人。長生きする社会には誰かの支えがないと生きていけないということが欠如しているのが高齢の親世代です。意識を変えていく必要があります。

50~60代はちょうど人生の折り返し点で、楽しみたい世代です。一番いい時期が60~70代かもしれません。しかしそれはあっという間で90~100歳の祖父母、夫の両親、自分の両親、夫の介護などWケア、トリプルケアも増えます。孫の出産手伝い、保育園の送迎も増えています。

人類未踏の長寿化が進んでいるのです。死亡率のピークは女性では93歳。95歳までは生きるでしょう。最晩年の90代の元気といっても世話になる歳月があるわけで、力がない家族形態で超高齢期を生きる親世代、祖父母世代が膨大に短期間に増えてしまったのです。これは近代以降の3大革命期と考えます。明治維新、敗戦後の民主化は国民一丸となってやってきました。しかしこの大変貌に取り組みがないままで危機が深まっているのです。

特に女性の80歳以上は一人暮らしが4割を超えます。一人で95までの十数年、最晩年は家族に頼れると思わないで、できるだけ身近な年の若い親しい人とつながっておくことが最大のテーマになります。

長く生きると逆縁も高まります。シングルの子どもと暮らすケースが増えていて、息子におむつやお風呂の世話になることも多く、息子が虐待加害者のケースも増えています。子が別居している場合は娘の負担が多くなりがちです。親は施設に入りたくないといっても男兄弟は施設に入れたい。親の願いをかなえたいと娘は無理をすることも。たとえ息子家族と同居していても、介護になれば娘に頼るというのもよくあることです。

戦後の家族は教育中心家族で、子どもの世話になってはいけないという価値観があります。9割の人は世話にはならないというけれど、倒れたら成り行き任せです。世話になる、弱る、という感覚が欠如しています。生涯現役、アクティブシニアが理想という文化が浸透していますが、老いというのは体力的に弱っていくのが必然です。倒れた時どうするかを考えたくないのです。

骨折や脳梗塞などで突然倒れることもありますが、親も子も備えがないままに倒れてしまうとどんな手段があるか、本人もどうしてほしいということもわからず、丸投げになってしまいます。コロナもあり厳しい時代、余裕のない子に丸投げしたら子の人生がつぶれます。特にシングルの娘は介護をするのが当たり前みたいな重圧があり、しかも非正規で働いていることも多いのです。

コロナで会いに行けない、リモートワークなどで子世代が疲弊するなど施設入所希望も増えています。国は在宅推進といいますが自宅で住み続けるという権利を保障することではありません。国はサービス付き高齢者住宅を在宅扱いし、サービスしやすいよう集める政策を進めています。親も子も医療介護、保険制度の知識に乏しく、自力でできることは備えるという意識が希薄です。

昭和高齢世代はお金もあり、夫婦が一人になったら年金で賄えるから施設にという流れがありますが、可能な限り家で住むのであれば、親も子も何か起きた時のことを日ごとから話しあっておく、別居の家族に連絡をすることを躊躇しない、親はかかりつけ医、近所の人といい関係を作る、別居の家族もご挨拶をしておく、など備えが大切になります。 

親世代が備えなければならないのは子世代のシングル化が進むからです。団塊の世代までは98%が結婚していましたが、2020年現在は男性の4人に一人、女性は5人に一人がシングルという状況です。今後も急速な家族の脆弱化、家族力の低下、そしてシングルの高齢者が増えるのです。

超長寿時代の高齢者の人生課題はピンピン期、ヨロヨロ期とドタリ期。長寿期が長いのです。その間の生活費をどう稼ぐのかを考えなければなりません。ヨロヨロ期でも週何日かは有償ボランティアにも行けます。楽しみもいいですが、社会的課題を持つことが重要になります。

熊谷晉一郎さんの言葉に「依存しないことが自立だというのは完全に間違いで依存先の数が多いことが自立です。依存先の選択肢が多く、それぞれの依存度が浅いことが自立です。」とあります。子ども、親族、近隣、友人、支援者など、つながりの質が晩年期の暮らしを左右します。家族だけではどうにもなりません。

家族力が低下した社会は公的制度によってしか支えられないという意識を持って、どんな制度になっているのか、国はどう動こうとしているのか関心を持ちましょう。自分で出来ることはするができないことは身近な人に頼り、それでもできないときは公的制度で保障していく社会を目指さなければいけません。

春日先生とロクマル理事長有澤の対談

有澤)高齢時代になったときに、楽しいのも大事だが、先生のいうつながりになるのでしょうか?つながりの質とか具体的に教えてください。

春日)おひとりさまカフェに通う人はアクティブで友人もいます。しかしインフルエンザで高熱があるときに誰かに言えますか?と聞くと、言えないというのです。借りを作りたくないというのは友達なのでしょうか。そういうレベルのつながりです。

もう一つはこれからの高齢者はIT技術も不可欠です。いくつかの次元があります。兄弟数が多かったときは女兄弟が友達の代わり、親族に変わる友達を作ることは難しいですが大事です。50代、60代から。お金もつながりも長年コツコツと貯めなきゃ貯まりません。

有澤)最後の高齢期のつながり作りにどういうことが大切ですか?

春日)志を持つことが大切では。駆けつけてくれる友達は自助グループ、イベントなど共感してやったなど、気の合う人、価値観に関わることをやれた人が残ります。多重化した関心が共有できる若い人が良いですね。同年齢は役に立たない。

有澤)お手紙弁当の活動を通してみると、連れ合いを亡くして一人暮らしの女性がほとんど。高齢問題というのは長生き女性の問題と思います。

春日)女性の方が虚弱化します。男性は大病でなくなることが多いのですが、80代半ばまでに生き延びると自立度が高いのです。女性は75を過ぎると虚弱化する人が多く、数は男性より多く、ヨロヨロ期も15年くらい続きます。

有澤)ヨロヨロ期を短くしたいです。

春日)そのためにスポーツジムに通うのも大事です。90過ぎてスポーツジムに行けません。

有澤)60代に80代以降をイメージするのは難しくて、いかに豊かにという話が多いのですが、少しずつこういうことも入れていくことが必要と思いました。

春日)三つのキン、お金、筋肉力、近所力(つながり)が大事です。健康長寿の超えたあとに10数年残っていると伝えることも必要ですね。

有澤)今回初めてのZoomにも挑戦されました。本の最後に『新たな世界、年齢感を拓かれた。年だからという言葉を使わない。人は歳ではなく変わり続けることができる』とありました。どういうことで新たな人間観を獲得できたのでしょう?

春日)100歳の人にもうすぐ死ぬと思いますかと聞くと、死ぬ気がしないという人が多いのです。

植木に水をやるなど日々の課題が生きる力になっているのです。自分なりの課題を見つけて、日々拓いていくのが人で、歳と思ったら閉ざされます。世の中には偉い人がいるとすごく思う。人は拓いていけるのです。

有澤)「おわりに」を読んでおいてよかった!有難うございました。

質疑応答

Y)介護、孫育ての真最中。母親が骨折してサ高住にいますが、毎日家に帰りたいと電話があります。月に一回家に連れて帰るのですが、弟に反対されます。

春日)そばにいる弟は月一回帰ってきていい顔するなと思うでしょう。弟夫婦に信頼関係があるかどうか。自宅に帰っても誰が看るのでしょう。元気な時の一人暮らしとは違います。毎日の食事と排泄の問題があります。男兄弟と話せるかが大切です。

Y)難しいです。男兄弟はそういうものとわかってよかったです。

T)子どもは海外で仕事をすることが多いので、どこに住むかとか考えています。友人作り、言える関係を作ることは意識的にやっているけれども考えたくない。自分で情報を集め、自分の介護を考える必要があると思いました。

春日)任意後見があります。依存の対象が多様というのは社会的に分業化、家族が外部化すること。考えたくないというが今は元気で明るい時です。明るい時に考えましょう。

S)経験から呼び寄せ老人は長期的には自宅に帰りたがるし、認知度は低下してくると思う。義親の介護をしてきました。関わりを少し残せたかと思うけれど、大切な(契約の)サインは嫁にはできません。

春日)関わることで死に際に嫁だけを覚えていることもあります。ただしそれはSさんの時代で終わり。息子の妻たちは自分の親たちに関わらなければならないので、息子に「あなたが面倒みるのよ」と言っておきましょう。

Sw)介護施設にお話を聞きに行き、内定調査をしています。高価な食事や社交ダンスはいらないと思う。子どもには柱にしがみついている私を引きはがして連れて行けと言ってます。

春日)高齢者施設に行って話を聞くのはベスト。知らない世界が開けます。施設に入って10年いることもあります。自分の学び、子どもがすることではありません。

K)地方に母親が独居。一人で住めないと言い、やってもらえるのが当たり前と考えるのをやめています。弟にはほとんど連絡はしないです。私も働いているのに。

春日)いかに自分が寂しいか、心細いか。罪意識を持たせるようにします。母親に冷たい私、と思わないことです。どうしても思うのですが、思わない力は大事。仕事を辞めるまでいかないことです。母親の死後も30年も40年も生きますから。地域包括センターとか民生委員とか帰省した時に調べておきましょう。

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 オンラインでしたが、画面の向こうで皆が大きくうなずき、爆笑、拍手が起きていたのは間違いなく、いろいろなことに納得でした。よりはっきり超長寿時代をイメージすることは辛いですが、エールを頂いきました。考えたくない、と見ないふりしていることは、自分のヨロヨロ期だけではなく日本のヨロヨロ期と重なります。三つのキン、お金、筋力、近所力(つながり)を貯め、志を持って若い人とつながらないと! 

春日先生の『百まで生きる覚悟』(光文社新書)『変わる家族と介護』(講談社新書)がおすすめです。