開催 2022年6月18日(土)
会場 みんなのキッチン・Zoom
https://rokumaru60.info/ohitorisamalife
おひとりさま講座の第1回目は、横浜市政策局共創推進課の関口昌行さんによる「横浜の一人世帯の現状とこれから」。横浜市のおひとりさまの現状や、おひとりさま社会をどのように乗り越えようとしているのかについて語った。
講座「横浜の一人世帯の現状とこれから」
超高齢化・単身化が進む横浜市
現在、人口約378万人と日本一規模の大きい自治体である横浜市は、2025年に65歳以上の高齢者が約100万人(うち75歳以上の後期高齢者は60万人)となる見込み。誰も経験したことのない状況に直面している。
人口構成は、20世紀後半では核家族(親と子どもの世帯)が中心だった。しかし現在は単身世帯が中心になっている。さらに高齢世代だけでなく30~50代のおひとりさま世帯が男女ともに急増。平均寿命は女性の方が長いこともあり、男性世帯主から女性世帯主が中心社会に変わってきている。
働き続ける女性が増えた理由
横浜の働く女性の割合は図のようなM型カーブを描く。20~30代に結婚・子育てを機に退職。子どもの成長とともに40~50代にかけて仕事に復帰し、60代以降に親の介護などを理由に再び退職するというパターンが多い。1985年と比べ2015年ではM字カーブが浅くなっている。つまり、20~30代の女性が仕事を辞めずに働き続けるようになったということだ。これにはいくつかの理由があげられる。
- 共働き夫婦の増加(平成25年では約30% ⇒ 現在50~60%)
- 専業主婦の減少(平成17年では約40% ⇒ 27年では約30%)
- 未婚、晩婚の増加(1980年代では30代前半の約10人に1人が未婚 ⇒ 現在は約10人に4人)
- シングルマザーなどひとり親が増えるなど家族の多様化
女性の未婚化・晩婚化がすすんだ背景
女性も男性と同じように働けるようになったこと、今まで家庭内で専業主婦が担ってきた高齢者介護が産業化したこと、少子化対策として保育園が作られたため女性の職業選択が増え、女性が自立できるような社会に変わってきたことなどが考えられる。
おひとりさま社会の課題
横浜市民意識調査によると、20世紀は2人に1人が「心配事はない」と答えたが、20世紀以降では10人中9人が「何らかの不安や心配がある」と回答した。社会のありかたとともに、人の気持ちも変化してきている。
さらに、2020年からのコロナ危機による影響も大きい。おひとりさま高齢者が自宅に引きこもって孤立し、心身の衰えが進んでいる。また、フリーランスや非正規労働者(特に女性)が失業するなどの打撃を受け、女性の自殺者も増加している。
これからのおひとりさま社会
現在、横浜市では住民が暮らしを豊かにするためのサービスやものを生み出し、より良いものにしていく活動「リビングラボ」の取り組みを進行中だ。例えば、大学生などの若者が地域で一人暮らしをしている高齢者へスマートフォンの使い方を教える「スマホ教室」を市内各地で行っている。
また、おひとりさまの「終活登録制度」として、将来への意思決定を支援する活動「アドボカシープランニング」の取り組みを計画している。さまざまな分野でおひとりさまへの総合的な社会保障をし、あらゆる世代がひとりでも安心して暮らせる地域社会を作っていくことを目指しているという。
今後は、一人ひとりが経済的に自立しながら、新しいパートナーシップを組んで家族・地域・職場をつくり、対等な立場で関係を築けるような社会を作り上げていくことが求められると締めくくった。
トークセッション「多様な一人ぐらしの時代」
講座の後半はコーディネーターの関口さんと、各分野でおひとりさま社会と向き合う40~60代の女性3人によるトークセッション。様々な世代や立場のおひとりさまの現状や課題について語り合った。
土倉玲子さん
13年前から一人暮らし中のロクマル世代。現在、企業での人材育成、学生へのカウンセリングなどを行う。高齢者の一人暮らしで気になるのは「健康・人間関係・やることがあるかな」
関口さん
おひとりさま高齢者の孤立支援について。介護による身体的支援だけでなく、未来への意思決定の支援(終活のアドバイスをしたり、一緒に考えていったりすること)が今後必要ではないか。
土倉さん
その人の状況に合わせた細かい支援があるといい。特に住まいへのアドバイスやメンタルケアが大事。コロナ禍の影響で地域活動がなくなり、高齢者が一人でいる不安や孤独を抱えている。一人暮らしだとまったく外出をしないこともあり、認知症や身体の衰えが進んでしまう場合もある。負の連鎖を食い止めないといけない。
関口さん
急速にスマホ社会が進んでいる現状を受け、横浜市は高齢者へ向けのスマホ教室を各地で開催している。学生が有償でスマホの使い方を教え、高齢者に喜ばれている。健康アプリを使ってウォーキングを始めることも。このような試みをどう思うか。
土倉さん
外出のきっかけになるので良いと思う。高齢者はものを学ぶことの楽しさと達成感が得られる一方、学生は感謝される喜びとやりがいを感じられる。双方にメリットがあるのではないか。高齢者が生きがいを感じるためには、人の役に立って自分が成長できたと思えることが大事。ゆるやかに横につながれる居場所があるといい。
槻岡佑三子さん
スタジオソイ一級建築士事務所代表。50代からの暮らしアップを応援する活動に取り組む。6年前から杉並区のシェアハウスで独り暮らし。地域のコミュニティにも参加している。
関口さん
シェアハウスという新しい共同体が、若者の間にあまり広がらない理由は?
槻岡さん
家賃を抑えるためというイメージがあり、共同生活が息苦しいと感じるのではないか。核家族で育った若者は他者と暮らす体験が少なく、一緒に家事をすることが面倒くさいと思うのかもしれない。
関口さん
シェアハウスは多様化しているのか?
槻岡さん
シェアハウスには、住宅を改造したもの、新築住宅、住民同士の共有スペースの有無など、さまざまな形態がある。どんな暮らし方や関わり方をしたいかによって選ぶことができる。
関口さん
これからは積極的に自分に合った暮らしやパートナーを選んでいく時代ではないか。
槻岡さん
今後、行政がおひとりさまをサポートすることは良い。例えば家にとじこもりがちな高齢者が、自宅にいても街とつながれるような。気軽に立ち寄れる場所があるといい。
穂志乃愛莉さん
NPO法人DV対策センター代表理事。DV・虐待被害者支援と母子家庭支援のために設立。
相談支援・シェルター運営。都筑区などで月1回の食品配布会を実施。すべての女性と子供たちが夢と希望を育んで生きていける社会を目指す。
関口さん
DV被害を受けた女性の一時避難場所であるシェルター運営で気を付けていることは?
穂志乃さん
シェアハウスで暮らしていると、国からの補助金(児童手当など)が支給されないことがあり、行政の制度に阻まれていると感じる。そのため早く自立した生活を送らないといけない現実がある。人それぞれの価値観の中でいかに支援をしていくかが課題だ。
関口さん
仕事への支援が一番の課題ではないか。
穂志乃さん
自力で仕事をさがせる人もいるが、家事や育児すらままならない人もいる。社会とつながるところからの支援が必要。月1回のボランティアをきっかけに外出するなど、まず居場所に出て来きてもらうことが大事だと思う。
関口さん
一緒に寄り添って就労への道筋をつくり、徐々にステップアップすることが大切では?
穂志乃さん
一人ひとりのニーズに合わせたゆるやかな支援ができるといい。モラルハラスメントを受けたり、生活費を十分にもらっていなかったりと、行政の支援が及ばない女性がいる。色々なパターンがあることを理解してほしい。今後は、地域の居場所づくりとして、近隣の高齢者と話ができるカフェを作りたい。
講座を受けて
ひとくくりに「おひとりさま」といっても、年代や家庭環境によりそれぞれの課題があることを学んだ。今まで積み重ねてきた人生や価値観により、今後の暮らし方は人それぞれ異なってくる。将来、自分はどうありたいのか。おひとりさま社会について自分ごととして考えていく第一歩となった。
参加者の感想
・元気なうちはいいが、動けなくなった時、いずれ一人になった時にどうするのか不安。(女性)
・シェアハウスは若者が住むイメージがあるが、高齢者同士でお互いに見守時り、ゆるやかにつながっていく暮らしがいい。例えば病院の付き添いなど、お互いに何かあった時に助け合える安心感があるから。(60代女性)
このレポートは、ロクマルライター養成講座を修了した小堀雅子さんが担当しました。