このページは、ロクマルライター養成講座で学んだ受講生による取材記事です。

柴田恵津子さん●81歳 横浜市内、15か所で朗読教室を主宰

柴田さんは、私の朗読の先生でもある

 先生との出会いは2003年。「広報横浜」で呼びかけられた朗読講座に応募した時だった。「講師の柴田です。65歳です」と歳を聞いて、その若さにみんな驚いた。スッキリと背筋を伸ばした姿がとても若々しかったのだ。それから17年の時が経つ。

今年は3つの新しいことに挑戦しようと思うの

 今年の1月、柴田先生は「3つの挑戦をする」と言った。凄いな!とその意欲に驚いた。去年80歳で「ラストコンサート」をした。そのエネルギーは一体、どこから出てくるのだろうか? 2月の半ば、先生の自宅を訪ねた。

 先生は、1958年18歳で劇団「新制作座」に入り38歳で退団した。退団後は横浜に戻り、昼はブティック、夜はお店で歌を歌っていた。その後、「横浜アナウンス学園」で、演劇の発声を教える講師になる。

はじめから先生という人はいない

数年後、学園を卒業する生徒の有志から「自分たちの朗読教室をやってほしい」との申し出を受ける。朗読の先生などやったことがない。

―会場はどこで? 

 「昼間のスナックをかりて、ミラーボールの下で教室を開いた」、と笑いながら懐かしそうに語る。

その後メンバーを募集。17、8人が集ったのをきっかけに、教室が誕生。それから先生になるための本格的な勉強を始めた。

―朗読を教えるって、どんな勉強を?  

 NHKの朗読通信教育を受けた。ボイストレーニングの先生について発声も学んだ。シャンソンも習うようになった。声や表現の分野で不足していることを、次々と習得していったのだ。 やがて磯子区に二つのサークルが誕生。「この二つの会が私を先生にしてくれたのね」と言う。

これからは朗読教室と劇団の仕事だけで食べていこう

先生の覚悟と新しい行動が、次の展開を作った。
アパートを出て、マンションを買うことになった。

「売り込みは大事。でも組織というより、そこで出会った人との関わりが大事なの」

自分を売り込むときは、資料を片手に、熱心に訴える。そして対応してくれた相手と何かの共感を得られた時、新しい展開が始まる。

港南区の社会教育課に行き、『街の先生』に登録。良き担当者にも恵まれ、「永谷地区センター」「港南地区センター」で自主事業の講座が度々企画された。講座が終わるごとにサークルができる。

やがて港南区に8つのサークルが誕生。そして西区、栄区などでも施設の館長や、副館長などの力でサークルができていった。

「出会った人に助けられて、教室ができていったの」と語る。私から見れば「柴田先生の熱意と情熱が、出会った人々の心を動かしてしまったに違いない」と思える。人はどんな時に、相手のために行動しようと思うのだろうか。出会った人との関わりを大切に35年、今81歳の先生。

今年初めのブログには・・・「『肉体は衰えても、前進しようとする魂は衰えない』といわれた玉三郎の言葉を、今年のテーマにしたい」・・・と書かれていた。

歳を取るということは、こんなふうに素敵なことなんだと感じる時があるの。」

「ぱっと言葉が出なかったり、記憶力は確かに退化しているけど、人間力は 成長しているなと」先生は授業で見せる強い感じとは違う、穏やかな深い表情で語った。「今が素敵に思える瞬間がたくさんあるのね」

今を見つめながら、先に進むための努力を惜しまない。「あと4年は頑張る。マンネリにならないように、知能と体力をもう一度組みなおしていこうと思う」と強い決意だ。そして今年、パソコン教室・ダンス・自彊術と新しく、3つのことを始めた。


取材を終えて:これからの私

組織を離れ、初めて個人で仕事をすることになった私。これからは仕事を通して、ありがとう!と言ってもらえるようになれたら幸せだな

拙い取材を終え家に戻った時、私は自分のことを考えていた。これから自分にできることや幸せとは何か。今まで組織の中で働いてきた私。一年前「背骨コンディショニング」のインストラクターの資格を取った。

実は10年前、私は「脊髄腫瘍」という病気になった。激痛との闘いが長く、鍼や整体、気功などたくさんの治療を受けた。3年前偶然、本屋で「背骨コンディショニング」に出会った。今までの治療とはまったく違うその方法に惹かれ、体操教室と個人矯正を続けるようになった。いつの間にか、今までの痛みがほとんど消えていた。自分自身の経験を少しでも生かすことができたらと、インストラクターの資格を取ったのだ。「人に喜ばれる、仕事ができたら良いな!」いつの間にかそう思い始めていた

去年2019年の夏、ロクマルの学び直し塾で勇気をもらい、初めて体験講座を開いた。私の幸せにつながる仕事は始まったばかりだ。これからはゆっくり、人との出会いやそこでの交流を大切にして、少しでも人の役に立ちたい。そして、楽しく生きていきたい。今回の取材でその思いを強くした。 書くことに初めて挑戦したライター講座。いつか、「三秀舎」という日本の印刷出版業界の草分けの血筋をもつ母(嶋寿美子)の、波乱万丈な人生を描けたら良いな。夢のまた夢。「ロクマルライター講座」の贈り物だ。

取材・文 奥山潔美