開催 2022年7月16日(土) 
会場 みんなのキッチン・Zoom
https://rokumaru60.info/ohitorisamalife

今回のテーマは「おひとりさま力」。

スピーカーの上野千鶴子氏はZoomでの登壇だが、会場にもZoomにも多くの聴衆が集まり、熱気のある中で講演がスタートした。

高齢者の「おひとりさま」はこれからもっと増える

令和4年6月に政府が発表した「男女共同参画白書」がとても良くできているので、ぜひみなさんも見てくださいね、とデータのお話からスタート。

男女共同参画白書によると、この40年間で、男女ともに「未婚」と「離別」の割合が大幅に増加した。令和2(2020)年時点の30歳時点の未婚割合は、女性は40.5%、男性は50.4%。同年の50歳時点で配偶者のいない人の割合は、男女ともに約3割にものぼる。

近年(平成27(2015)年~令和元(2019)年)は、婚姻件数は約60万件で推移。離婚件数は、約20万件と、離婚件数は婚姻件数の約3分の1で推移。

昭和55(1980)年時点では、全世帯の6割以上を「夫婦と子供(42.1%)」と「3世代等(19.9%)」の家族が占めていたが、令和2(2020)年時点では、夫婦と子供世帯の割合は25.0%に、3世代等世帯の割合も7.7%に低下している一方で、単独世帯の割合が38.0%と、昭和55(1980)年時点と比較して2倍近く増加している。

「まだ夫婦と子供世帯が25.0%もある」と思うかもしれないが、老夫婦と中年の子供の世帯、つまり、近いうちに親が亡くなり単身になる世帯も含めての数字です、と上野氏。

結婚しない「シングル」が増加し、結婚しても離婚してひとりに戻る「シングルアゲイン」も増えた。また、歳を取れば配偶者と死別してやはりシングルアゲインとなる。シングルもこれだけ増えれば当たり前の存在になってきますね、と上野氏。

そんな中で高齢期の「おひとりさま」についても新しい考え方が出てくるようになってきたという。

「おひとりさま」は孤独?

シングルで高齢期を迎える人が増えるにつれ、独居高齢者への偏見もなくなってきた、と上野氏。ひとり暮らしと同居者がいる高齢者では、ひとり暮らしの幸福度が高く、夫婦や子供とのふたり暮らしが最も幸福度が低いという調査結果も紹介された。

一番寂しいのは、ひとりでいることではなく、気持ちの通じない家族との同居だという。

「ひとりでいたい時にひとりでいられる自由と、ひとりでいたくない時にひとりでいなくて済む自由は両方必要です。そして、ひとりでいたいのにいられない、自由がないことが最も苦痛です」

ひとりでいられる環境を保ちながら、ひとりでいたくない時には一緒に過ごせる人を調達できる態勢があるのが良いので、なるべくなら住み慣れた土地に住み続けて地域とのつながりを保つこと。また、様々なコミュニケーションツールを活用し、場面に合わせて共に過ごせる仲間とつながっておくこともできればなお良い、とのこと。

高齢おひとりさまを楽しむポイントはこの3つ、

・生活環境を変えない
・金持ちより友持ち
・家族から離れて自由に暮らす

だと、上野氏は考えている。

高齢期の「おひとりさま」が安心して暮らし、安心して死ぬために

上野氏の近著に『在宅ひとり死のススメ』という本がある。

「このタイトル、昔だったら付けられなかったかもしれない。ここ10年ぐらいでやっと『おひとりさまで何が悪い』と言えるようになり、受け入れられるようになりました」と、上野氏。

日本人の心の中にはまだ「親の死に目に会わなければ(不幸だ)」という考え方が根強いが、上野氏はこれを「看取り立ち会いコンプレックス」と呼ぶ。

臨終の際、死にゆく人をたくさんの親族が取り囲み、「いままでありがとう」「あなたの娘で良かった」と叫ぶシーンがドラマなどでよく描かれるが、上野氏に言わせれば「そんなことは、もっと元気で余裕があるうちに伝えておきなはれ」とのこと。会場一同から笑いが漏れた。

「在宅ひとり死するための三条件」として上野氏が挙げるのは、

・自己決定
・キーパーソン(司令塔)
・システム

自己決定とは、本人の「最後まで自宅で暮らして自宅で死ぬ」という意志。

キーパーソンは子供をはじめとする身近な親族のことで、彼らが本人の意志を理解して動く司令塔になる必要がある。

最後に、システム。24時間対応してくれる訪問介護・訪問看護・訪問医療のこと。

本人とキーパーソンがこのシステムを適切に利用することで、在宅ひとり死を実現することが可能になる、と上野氏。

10年前には、自宅で死ぬことは家族がいないと難しいと言われてきたが、現在では、むしろ同居者がいない方が良い、外野のノイズや関係者が少ないほどやりやすいと言われるようになってきたとのこと。それは、介護保険制度20年の成果だ、と上野氏は言う。

「介護保険の制度ができたことで、これまで家族に押しつけられていた介護の負担が社会化し、高齢者がひとりで暮らすことができるようになりました」

この制度は上野氏が海外の方にも自慢しているほどによく出来ているものであり、今後も守られていくべきだが、この先の政治のあり方によっては、またこの負担を家族に戻す動きが起こらないとも限らないという。上野氏は、そのことに危機感を感じているとも語った。

交流タイム

交流タイムでは、60歳でいったん退職してから再就職をしようとしている方からの悩み相談や、上野氏自身のおひとりさまの過ごし方、海外在住の方からの「高齢になったら日本に戻る方が良い?」などの相談に答えていただいた。

最後に「先生がテレビで『強者は強者ではいられない』と話されたのを聞いた。強者が弱者になる時に必要な覚悟とは?」という質問があった。

それに対して上野氏は、「講座の中で言い忘れていたことがありました。いい質問をいただきました」とにっこり。そして、以下のような回答をいただいた。

「日本の社会では ”人に迷惑をかけない” という美徳を重んじるところがあって、なかなか人に弱さを見せたり頼ったりすることがしにくい。だけど、どんな強者でも強者のままではいられない。年をとれば、必ず人は衰える。弱くなるということは、人に頼るということ。「助けて」と人に言えることは大切なスキルです。だから、自分の弱さを見せる勇気を持ちましょう」

ズバッと鋭い中にも時に笑いを交えながら展開する上野氏の講義に、会場に集まった聴衆もZoomでの参加者もしきりにうなずきながら熱心に耳を傾けていた。あっという間の1時間半の講座となった。

このレポートは、ロクマルライター養成講座を修了した寺田祐子さんが担当しました。